が付けば暗闇の中に螢惑はいた。周りには誰もいない。今まで隣で仕事をしていた辰怜も太白も。眉を顰める。考えるのはどうも苦手だ。しばらくぼんやりしているとクスリと笑う声が聞こえた。闇に溶けるような見慣れぬ服を着て、闇に映える実りの色をした髪をした人が立っていた。


「やぁ、」


声をかけられる。無意識に近づくと琥珀の瞳が笑んだ。てっきり男かと思ったが近くで見ると女性である事がわかる。中性的な顔。ある女性の面影と重なる。自分の親しい友人。そうだ、目の前の女性は彼女の良く似ている。目の前の女性は再び振り向いてにやんと微笑む。手には線香花火が握られていた。


「どうもウチの連中は派手な花火が好きでね、最後には必ずこれが残るんだ。」
「ふぅん、も嫌いなの?」
「いや好きだよ。ただ一人でやるのは寂しい。」


いつもは退が付き合ってくれるんだが夜勤が入ってね、とと名乗った目の前の女性の隣に螢惑もしゃがみ込んで丸い赤い玉を眺める。時折、小さな電流みたいなのが走るのが面白い。螢惑、彼女が呼ぶ。名乗った覚えはない。しかしその名を彼女が知っているのに不思議と驚きはしなかった。そう感じさせる力が彼女のはあったのだろう。


「君の名は灯の意味を持つね。」
「前にも同じようなこと言われた。」
「うん、」


が微笑む。伏せた睫毛が花火の明りに濃い影を落とす。頼みたい事があるんだ。しばらくして彼女はそう言った。何?、と彼は聞く。


「あの子が、」


やけに真剣な声だ。あの子。誰のことか判らないはずだ。なのに目の前の女性に似た友人が頭を掠める。あの子は彼女。確信にも似た考えが駆け巡った。


「もしあの子が闇に迷う事があったら」


一瞬彼女が何かを悔やむような表情をしたように見えた。花火の所為かもしれない。その証拠には螢惑を見て微笑んでいる。ゆっくりとした声。友人に似た優しい声だ。


「迷わぬように灯をつけておくれね」


火 薬 の 匂 い と 一 つ の 約 束