「お前泣き虫だなー。」 ビー玉とガラス瓶がぶつかる高い音と共にクスクス笑う声が上から降ってきては泣き腫らした目で相手を見た。小さな社。提灯一個の明りがなんとも頼りなく座った石段は冷たい。縁日の騒ぎが遠く聞こえる。ソレを遮るようにして少年がこちらを見て笑うのがわかった。履き慣らしたジーパンに白いTシャツ。黒髪から覗く吊った目も黒い。よりも六、七歳年上に見える彼は空になったラムネの瓶を片手に一歩近づく。不思議と怖くはなかった。彼との距離を縮めるよりも人ばっかの夜店の通りでサソリを探す方がずっと恐ろしかった。大勢の人が怖い。サソリがいないのが怖い。人の気配が多すぎてサソリの気配を辿れないのが怖い。ぶわりと涙が溢れてくる。泣き虫、もう一度彼が言った。 「俺、日生。日生光宏な。」 「・・・・、」 「知ってる。さっきたこ焼き落としてサソリって人に怒られてたもんな。」 「え、」 「しょうがないから連れてってやるよ。」 「う、わ」 「ほら」 言うが先か手が先か、日生と名乗る少年はの手をむんずと掴んで無理矢理立ち上がらせるとそのまま騒がしい大通りへと走り出す。強制的に彼女も走る事になるのだが不思議な事に走るスペースもないほどの人込みが先を行く日生を避ける様にわかれる。しかも間を一直線に通っているにもかかわらず行く人は二人に全く気付いていないのだ。日生の速度が速くなる。慣れない下駄でも必死に走る。大通りを抜けて横に曲がり百段近くある石段を登り終えると大社の前にずらりと石で出来た狐が並んでいた。目を瞬かせて見つめていると!と聞き慣れた声が聞こえた。横を見ればサソリが少し呼吸を乱して立っている。睨み付けるような目。思わず身体が竦む。案の定彼は 帰ったら覚悟しとけよ、と唸るように言ってきた。暁で一番説教するのが少ないサソリはだから説教し始めると一番長い。ソレを痛いほど良く知っているは内心溜め息をつくがふと思い出したように周りを見渡す。日生がいない。引っぱられていた腕にもいつの間にか放されている。 「いくぞ。」 上からサソリの声。手を握られ、ふらりと体が浮く。その瞬間目の前にいた石の狐の瞳が笑んだ気がした。黒い水晶のはめ込まれたソレはさっきまで笑んでいた日生の瞳に似ている。 風に混じって狐の鳴き声が聞こえた。 |
狐 は 笑 っ て コ ン と 啼 く