が何かを熱心に眺めているのを見つけた。 彼女の視線の先にあるのはキリコ硝子。その中には小さな赤い金魚が泳いでいる。気になって声を掛けると常盤の瞳は自分の方に向いてにこりと笑った。どうやらサソリの旦那が買って来たらしい。縁日の出店で掴まったんだろう。あの手の商売人は流石と言うべきか商売が上手い。相手を懐かしい気持ちにさせつつ商品を売るのだ。だからついつい買ってきてしまう。(この間イタチが林檎飴を買ってきた)(その前は鬼鮫が風鈴を) 「サソリさん、少しの間部屋の電気を消してもいいですか?」 「あぁ?好きにしろ。」 ヒルコの調整をしている旦那がぶっきらぼうにそう告げると彼女が ありがとう御座いますと、嬉しそうに笑った。雲雀と言う妖からの依頼でをアジトに住まわせて早一ヶ月。最初こそびくびくおどおどしていた彼女も妖と暮らしているだけあって(しかもあの偏屈屋の雲雀だ)段々と馴染んで着ていた。未だに自分たちの本業である殺しなどの闇の仕事には怯えているが、自分たちには怯えない。珍しい人種だと思う。 パチンと部屋の明かりが消えた。月の光にキリコ硝子の影が薄紫色に浮かび上がる。そして金魚の影が本体である金魚を離れて悠々と部屋の中を泳いだ。一匹ではない。十匹ほどの金魚の影。赤い金魚の影もまた赤く、好き勝手にひれを動かしている。その光景に目を奪われていると隣でが嬉しそうに笑った。時々彼女はこうやって不思議なものを見せてくれる。本人は感謝の気持ちだと言っていた。こんな事しか出来ませんが喜んでいただければ嬉しいです、と不安そうに言っていたのを覚えている。 が見せるものは一つ一つが確かな芸術で自分の芸術とは分野が違うが美しかった。旦那も自分と同じ気持ちだろう。金魚たちを眺める目は芸術家のソレである。彼女の持つ“人に見えざるモノ”を視る能力はおよそ生命の始めの芸術だ。一瞬を美とする自分や永遠を美とする旦那の始めの部分に当たる芸術。それをこれほどまでに美しく、押し付ける事もなく表現するのだ。珍しい人種だ。全てにおいて。死を恐れるくせに死神は恐れず芸術家でもないのに生まれたその瞬間から芸術を知る者。 秋になれば依頼期間は終わりだ。今更になって惜しい気がしてくる。 いっそのこと殺した事にしてずっと住まわせてしまおうか。 |
キ リ コ 硝 子 を 泳 ぐ 魚