「今 日が何の日か知ってますか?」 先を歩くの問いかけにザンザスは 知らねぇよ、と気のない返事をする。それでも彼女は嫌な顔をせずにニコリと微笑んだ。ついさっき会ったばかりだがこの女、どうも喰えない。なのに嫌な気はしなかった。茶色い髪が暗闇を揺れる。変わった着物を着たその人は自分と同じ黒尽くめのはずなのに自分とは違う匂いがした。 「ザンザス様は異国の方故御存じないのも当然です。気が利かず申し訳ありません。」 本当に申し訳なさそうに頭を下げるに彼は当惑した。自分の強面に怯えもせず、そのくせ強気にもならずに丁寧に接する女を今まで見たことがなかった。彼女の腰には刀が差してある。この国では女性でも刀を使うのですよ、と彼女は言ったがソレにしたって随分と手馴れている。さっき見せてもらった刃は鋭く手入れが行き届いている。 「今日はお盆の最終日なのです。ほら、見て下さい」 指差した先にぼんやりとした小さな灯が見えた。下が川なのかそれがいくつも流れていく。あの灯は何なんだろうか、ザンザスの心を見透かしたようには微笑む。 「あれは灯篭と言うんですよ。木の囲いに和紙を張って中に蝋燭を立てたものです。」 「そんなもの流していいのか?」 「えぇ、今日はお盆ですから。ああやって灯篭を流す事で今まで着ていた先祖や亡くなった方をお送りするのです。そちらのハロウィーンと同じですね。」 「お前は博識なんだな。」 なんとなしにそう呟くと目の前の女性はきょとんとして、それから笑った。川上には沢山の人が灯篭を流している。一人の子供が目に入った。少年だろうか。少女だろうか。生憎この国の人間ではないザンザスには服で性別を判断するのは難しい。は袴を穿いているのに女性なのだから。 「あの方は時人様です。俺の義妹にあたるお方なのですが由緒正しい家柄の嫡子でございます。聡明でお美しい方でしょう。」 確かに幼さが残るが整った顔立ちをしている。しかし驚いたのは異母姉妹となる女をが敵意も皮肉もなく褒めた事だ。彼女は時人と言う妹を嬉しそうに悲しそうに見ている。何も言えずにザンザスも時人を眺めていた。時人が手に持っていた灯篭がゆっくりと川に流された。なのに他の灯篭とは違う方向に流れていく。ゆっくりと。ソレはの足元で止った。灯篭は亡くなった人間があの世に帰るためのもの。 「この前この地で沢山の人が亡くなりました。皆、己の正義の為に戦ったのです。何が良くて悪いかわかりません。でもその戦いは必要なものだったのだと思っております。」 無言で灯篭を取り上げると彼女はザンザスの方に向いて苦笑した。そして黒い帽子を被りなおす。 「この時期は色々なものの境が曖昧になるのです。ザンザス様のように違う世界の方が迷う事も少なくありません。生前俺は案内人を勤めさせて頂いていたので道には詳しいと自負しております。この暗さにさぞやお困りでしょう。」 黒い瞳が煌いた。満足気に微笑んだ口が動く。 |
お 送 り し ま す