心のままに








もう朝だろうか。


夢見心地のままは思った。
明日までの報告書はまだ書きかけだったはずだ。
外に並ぶ患者を見なければ。
今日一日を思い描いて寝返りを打つ。
お世辞にも柔らかいとは言えないソファが少し軋んだ。


まだ眠い。
昨日は休みで充分寝たはずなのに瞼を上げるのが億劫でしょうがない。
身体に掛けられた毛布を手繰り寄せて丸くなる。
不意に近藤の顔が浮かんだ。


あぁ、そうだ。
昨日は近藤さんを探していてあまり寝てなかったんだ。
土方はちゃんと近藤さんを迎えに来たっけ。
いまいち思い出せない。
無意識に手を伸ばす。
いつもテーブルに置いているはずの煙草が見付からない。
変だなと思ってうっすら目を開くとそこには見覚えの無いテーブルと
そのさきに頬杖をついて自分をじっと見る少女がいる。
もう一度目を閉じたとき、脳は此処が自分の家ではない事を直ちに理解し
自分があの河原で気を失った事を思い出した。
背筋に冷たいものが走って飛び起きる。


何処だここは。
彼女は誰だ。


頭が同じ質問を壊れたように何度も繰り返す。


「目、覚めたアルか?」


独特な口調で少女が言った。は曖昧に頷く。
部屋には少女しかいない。テレビがついていたが彼女は見ていないようだ。


「もう少しすれば銀ちゃん帰ってくるネ。それまで此処にいるヨロシ。」
「銀ちゃん?」
「お前の事拾ってきた奴ヨ。
河原で行き成り倒れてびっくりしたって銀ちゃん言ってたネ。
お前あそこで何してたアルか?」


そういえば気を失う前に誰かに腕を掴まれた記憶がある。


「人探し、かな。」
「何で人探ししてて倒れるネ。」
「睡眠不足だったんだよ。一週間寝てなかったしな。」
「・・・お前銀ちゃんより変アル。一週間も寝ない奴初めて見たヨ。」
「そりゃ、そうだろうな。」


むぅっと下唇を突き出す少女には思わず噴出した。
少女は驚いた顔をしてを見た。
その様子には内心首を傾げる。


「お前笑えるのカ?」
「笑わないと思った?」
「・・・うん。」


気まずそうに少女は頷いた。


お前人形みたいだから。
そう呟いた少女にあぁと、納得する。
子供は素直だ。
ストレートに自分が思ったことを口にする。
しかし、それに邪気も何も無いからは笑った。


「こんな顔じゃそう思われても仕方がないな。」
「怒らないのカ?」
「なんで?」
「・・・私失礼な事言ったヨ。」
「最初は誰でも思うことだ。もう慣れてる。」


ポケットを探って煙草を咥える。
少女に煙草は大丈夫かと聞けば小さく頷いた。


「・・・でも私失礼な事言ったネ。」


だからごめんなさい。
そう言って頭を下げる。


子供は素直だ、本当に。


「アンタの名前は?」
「神楽。お前は?」
。」
、良い名前ネ。」
「神楽の名前もなかなかだ。」


神楽はにっこり笑う。
も笑った。


玄関のベルが鳴った。


「きっと銀ちゃんネ。」


神楽は立ち上がって玄関へ駆け出した。
少女がいなくなった部屋はどことなく寂しさが残る。
見上げた窓の外は青い。そこから目線を下げると時計があった。
丁度、十時を指している。


「・・・あ、病院。」


忘れてた。
は焦ってソファから下りた。
少し立眩みがしたがすぐ治る。
ソファに掛けてあった白衣に腕を通して戸に手を掛けた。
しかし、が開く前にその戸は開かれた。
そこには自分より背の高い男がいた。
目を見開く。
銀髪の。背の高い男。





「白夜叉・・・・。」











(タイトルはゆずから)