「・・・あの野郎。妙って名前だけでどうやって探せってんだ。」
他にも歌舞伎町に住んでいるとも情報があったが大して役に立たない。
歌舞伎町はそれなりに広い。庭の中に落とした米粒を探すのと同じ事だ。
カブトムシ
「しかも人通りも少ねぇし。」
辺りを見回すと明らかに人が少ない。
しかもと目が合うとそそくさ逃げるように通り過ぎてしまう。
の顔は綺麗だが、どうも怖く思われがちだ。
肩上までの長い前髪。
その色は珍しい青味がかった直毛の白髪だ。
その髪から透けて見える切れ長の瞳は双方の色が違う。
左が黒で右が青。
肌の色も日本人離れした陶磁色。
人にしてはあまりにも完璧な造形をしている。
天人もとうに見慣れた世界だというのには「異端」のままだ。
もソレを知っているからたいして気にしていない。
この顔ともう何十年と共にいるのだ。
が会う人の多くはこの顔を好まなかった。
陰口を叩かれ、蔑まれ、ときには石を投げつけられた。
(アイツだけが俺を人として扱ってくれた。)
不意に昔を思い出しては立ち止まる。
そして思い出したことに後悔した。
昔にいい思い出など無い。
アイツはアイツで良い死に方をしなかった。
(嫌な事ばかりだ。)
アイツの笑った顔ばかり浮かんでは消えていく。
浮かんでくるならずっとそのまま笑っててくれればいいのに。
消えるならもう二度と出てこなければいいのに。
やるせない気持ちが込み上げてくる。
じわりと目じりが熱くなった。
きっと寝ていないから情緒不安定なんだと思う。
打ち消すために吸った煙草の味がやけに苦い。
少し気持ちが落ち着いた。
止ったままの足を持ち上げて踏み出す。
前へ前へ前へ。
もう元には戻らない。
の親友は帰ってこないのだから。
当ても無くふらりふらりと歩いていくと橋に人だかりが出来ているのを見かけた。
何があるのかと見ようにもあまりの人だかりで前列すら見えない。
周りの話に聞き耳を立てているとどうやら女を取り合っての決闘らしい。
と、嫌な既視感に襲われた。
女の尻を追っかけている自分の探し人。
女の取り合いで決闘しているどっかの誰か。
そんなの何処でもある事だ。しかし、どうも引っかかる。
こんなタイミング良く決闘などあるだろうか。
しかもここは歌舞伎町ときてる。
痛んできた頭を押さえて人が減るのを待つ。
わぁっと喝采が前から聞こえた。
勝負がついたんだろう。
減っていく人をすり抜けて河原を見ていれば案の定。
「近藤さん・・・・・。」
黒い艶の無い着物。短い髪。白目を剥いている探し人本人だった。
どっと疲労感が体を襲う。呆れて物も言えない。
横の土手から下って近くに寄ってみる。
頬の腫れ以外は無傷だった事にほっとして、ほっとした自分に気恥ずかしさを覚えた。
とりあえず丸見えのフンドシを着物で隠して、(近藤の)懐から携帯を出し、
土方に連絡をしといた。
現在の状況と大体の話をし終えた後、彼はしばらく沈黙して わかった、世話かけたな。
と素直に労いの言葉を一つ言って電話を切った。
おそらく彼のことだ。全力疾走で此処に向かってるに違いない。
なんだかんだ言って彼は近藤が大切なんだ。
その様子を想像して一人くすくす笑った。
彼らが自分と同じ轍を踏む事が無ければ言いと思いながら。
天を仰げば空はもう茜色に染まっていた。
結局睡眠不足のまま一日が終わる。
(まったく散々な日だった。)
やれやれと腰を起こすと世界がぐにゃりと歪んだ。
立眩みだ。疲労が溜まるとよくなるが少し経てば治る。
今度も軽い立眩みだろうと踏んで無理に歩き出したのがまずかった。
立眩みは一向に治らず更に酷くなっていった。
最早世界が歪んでいるのか地面が揺れているのかが判断が付かない。
意識が遠のく。
まだニ、三歩も歩いてないのに。
浮遊感が自分を包み込んで地面が近づいてくる。
行き成り腕を掴まれた。
ぼやけた視界の中、知り合いによく似た顔の人が驚いて何か言っている。
そして、の意識は途切れた。
タイトルはaikoから。