僕の神様





辰怜が少しはを見習え、と言ったので俺はこいつは馬鹿だな、と思い笑ってやった。彼は眉を顰めて何か言おうとしたが、俺に何を言っても無駄だと最近になって学習したのか何も言わず去っていった。


辰怜と正反対の俺はとも似ても似つかない性格をしている。は仁義を大切にして、人当たりはいい。でもだからと言って俺と全然似ていないが、俺と正反対の辰怜に似ているかと言えば、これもまた似ていないのだ。彼女は辰怜のように仏頂面ではない。いつも笑っている。では、誰にいているのだろうか。それは誰にも似ていない。ゆんゆんとも鎮明とも、それこそ彼女の父親である吹雪とも全く異なっている彼女は壬生一族でありながら一族の誰とも異なっており、狂とは違う意味で異端だった。




罪悪感はあるんだ。
その人の人生を奪うわけだから。理不尽な命令のときとか特に。
時々さぁ、思うんだよ。何でこの人が死ななきゃならないんだろうって。
つっても俺がその命を奪うんだけどね。だからさぁ。俺が殺めてしまったその人の分まで生きなきゃって思う。そうしないと報われないよなって。
まぁ、相手からしたら殺しておいてよくもぬけぬけと、とか思ってるんだろうよ。
それでも俺が出来る事ってそのくらいだし、償うとしたらそれしか出来ないんだ。 相手に護りたいものがあるように俺にも護りたいものがあるから。死ぬわけにはいかないし。なんてね、ただ死ぬのが怖いだけなのかもしれない。
どっちにしろ俺は醜いよ。









俺は醜い。











自分のことを醜いという彼女は人が一人死ぬたびに 人を一人殺すたびに
それらが生きるはずの人生を背負い込む。
誰よりも弱くて誰よりも臆病な彼女はきっと誰よりも強いから。
その分を生きようとするのだ。


どっちにしろ彼女は異端だ。冷酷で残忍な壬生一族の中で死に逝く者を省みるは、醜いと言う彼女は異端の他でもない。

だからこそ、は俺の神様なのだ。
死人を省みる事も出来ない、醜いと思うことも無い俺や 壬生一族にとって。
道を標す神である。







辰怜は何も判っていない。
彼女を見習う事など俺も辰怜も誰も出来ないのに。




(盲目の信仰。己と違う者への憧れと渇望)