冷えた夜だった。
隣を歩くハーマイオニーが身震いしたのを感じる。
終幕へ・・・
今夜、スネイプは石を狙うだろう。
ダンブルドアはホグワーツにいない。
自分たちだけでやるしかないんだ。
石が渡れば自分は死ぬ。
ロンもハーマイオニーも
そしても・・・。
全て今夜決まるんだ。
そう思うと肩に重さを感じた。
足が震える。
自分は出来るだろうか。
大丈夫だろうか。
心配すんなよ
満面の笑み。
彼の声が脳裏に聞こえた。
暖かい赤い瞳が自分を見つめる。
成るように成れだ
心が暖かくなった。
うん
そうだね
目を閉じて笑う。
今此処にいない彼へ・・・・。
「ぎゃああああぁァァァ!!!!」
けたたましいクィレルの叫び声。
ぱさぱさと乾いた皮膚が冷たい石階段に落ちる。
意識が朦朧とする中、ハリーは無我夢中で自分の手をクィレルに
押し付けた。
肌の焼ける異常な臭いと音。
尚も暴れるクィレルを押さえ
首、顔、頭と手を押し付ける。
「ああああぁぁぁぁぁァァ・・・・・・・・・。」
クィレルの顔はひび割れ、最後には灰となって見えなくなった。
それと同時にハリーも崩れる。
緊張の糸が切れたのだろう。
精神的、身体的に限界を超えてしまったのだ。
手には賢者の石が赤々と輝く。
それをぼんやりと見つめ、意識が遠のいていくのを感じたときだった。
じゃりっ・・・・
飛び散った破片を踏み、ハリーに近づく足音が聞こえる。
ハーマイオニーだろうか。
無理に持ち上げた翡翠の瞳に映ったのは
ローブを被った黒い影・・・―――――― ヴォルデモート
「そこまでだ・・・・・。」
地獄から響くような低い声。
此処で自分は死ぬ・・・。
肌が粟立った。
自分にはもう逃げる力は残ってない。
一段、二段・・・・自分に近寄ってくるそれ。
「せいぜい俺に逆らった事を悔やむんだな。」
笑いを含んだ声。
ローブから冷たい深紅の瞳が覗いている。
の瞳とは大違いだ
どうでも良い事が脳裏を過ぎる。
最後に彼に会いたかった。
「ハリー・ポッターに手を出すな。」
気を失う寸前、隻眼の少年の声を聞いた気がした。