覚えの無い夢を見た。
「少し曇ってきたな。」
今まで書物を読んでいたヴォルデモートが窓の外を見て呟いた。
もその声に反応して顔を上げる。
ガラスの向こう側ではなるぼど、灰色の雲が多い。
「降るかもね。あ、洗濯物入れないと。」
途中の書類をそのままに立ち上がったを一瞥すると
ヴォルデモートは傍においていた杖を一振り。
外に干しておいた洗濯物はあっという間に机の上に山済みとなった。
「・・・・俺が立つ前にやってくれよ。」
「お前が立ったのが悪い。」
「・・・・・・・。(この俺様め)」
「何か言ったか?(にこり)」
相手を凍りつかせる完璧な微笑みには冷や汗を流しつつ、
いいえ、何も。と引きつった顔で笑った。
だったらいいんだ。と鼻を鳴らす自分の父親には
いつか絶対見返してやると、心の中で誓ったのは言うまでも無い。
まぁ、洗濯物を取り込む手間が省けたしと思って自分を落ち着かせると
書きかけの書類の続きでもしようかと席についた―――――――が、
「・・・父さん?」
「何だ。」
「洗濯物で書類がかけないんですが。(もっと違うところに置けよ)」
「畳めばいいじゃないか。」
・・・・・・・こんの野郎!!!(心の叫び)
「どかす魔法でもやってくれると大変有りがたいんですけど。」
「畳めばいいだろ。」
あくまで畳む事を推薦ですか。
「今日の夕方までの書類「どうせ畳むのは一緒だ。早く畳むに越した事は無い。」
・・・・・・・・・・。
にっこり、と爽やかに笑うヴォルデモート。
その裏に隠された意味には諦めを感じる。
どうやら彼には畳む以外道は無いらしい。
「あー降って来たよ、雨。」
「嫌いか?」
「嫌いっつーか、濡れるのがいや。あと湿度高くなるし。」
テキパキとローブやら軍服やら下着やらを畳んでいくをヴォルデモートは
きょとんとした顔のまま見つめ、さも当然の事のような調子で言った。
「魔法を使えばいいじゃないか。」
畳む手が止る。
大きな赤い瞳がヴォルデモートをじっと見つめた。
数秒だろうか。
ぽつぽつ降る雨音が大きく聞こえた。
おもむろにが目を離し長い長い溜め息をついて肩を落とした。
「父さん、俺はふっつうのマグルだってば。魔法とか使えないから。」
「やってみなければわからんだろう。」
「や、もう錬金術で手ぇ一杯一杯。」
「ああ、それもそうだな。俺に内緒で軍人にもなったしな。さぞ、忙しかろう。」
「(怒ってるよ・・・;)だから悪かったと思ってるよ。」
「ふん。」
嫌味ったらしく鼻を鳴らして彼は読んでいた本に目を戻した。
も止まっていた手を動かす。
軽い雨音が重くなっていく。本降りだ。
畳みながらは思考を巡らせた。
今日のご飯は何だろうとか書類の期限は守れないだろうなとか
幸せだなとか。
そんなことを考えていた。
広くも狭くもない家の中でこうやって憎まれ口叩きながら一緒にいる時間が
とても好きだ。
今日は休日だから父親も魔法省の仕事は休み。
自分も休み。
母親は買物に出かけている。
もうすぐ戻ってくるだろう。
今日は腕によりをかけるらしい。
両目で見る世界は綺麗だ。
まるで片目だったような言い方だ。そう思っては苦笑する。
「なぁ、父さん。」
呼ばれてヴォルデモートの顔が上がった。
なんだ?と目で訴えている。
は特に用事が無い事に気付き、少しうろたえる。
「あー・・・・なんでもない。」
やや口ごもって居心地悪そうに目を伏せた。
無意識で呼んだなんて口が裂けてもいえない。
恥ずかしい。
くすりと笑う声。
反射的に目を上げると赤い目が柔らかく笑っていた。
自分と同じ色の瞳。
彼と同じ色の瞳。
形の良い唇が開いた。
「愛してるよ、。」
目を覚まして自分が泣いているのには気が付いた。
ぼやける視界。青い空。
「・・・・・・夢。」
寝そべっていた木の幹の感触が伝わる。
木漏れ日がゆらゆら揺らぐ。
「は、ははは・・・。」
乾いた笑い。
喉が痛い。
笑いながら涙が零れ落ちていく。
つまり、さっきまでのアレは夢で。話も内容も全部全部夢で・・・
「ヤな夢。」
ポツリと呟いて空を見上げる。
葉の隙間から絵の具で塗ったくったような青い空が見えた。
雨は降っていない。
洗濯物もない。
彼もいない。
両の目も・・・・ない。
片目で見る空は驚くほどすばらしい。綺麗だ。
両目で見ても片目で見ても変わらない。
所詮そんなものなのだ、世界など。
何処で誰が死のうが生まれようが世界は知ったこっちゃないのだ。
明けない夜がないように更けない朝はない。
散々だった出来事も知らぬ振りして過去に変えてしまう。
変わったのは自分だった。
自分だけが。
世界に皮肉を言ったつもりが逆に返された気がした。