忘れるな

忘れるな

あの日の出来事を

雨の日の決意を









真理の代価







「あ〜面倒臭せぇ。」


人気のない廊下では一人ごちた。

両手には凄い量の羊皮紙。
いわずともグリフィンドール生のレポートである。

はさっきの授業でレポートの回収を任されてしまったのだ。

それも魔法薬学のレポートだ。



「せっかくハリー達とハグリットの小屋に行くはずだったのに・・・・。」




朝に“ドラゴンが孵る”と言う知らせを受け、この時間に行く事になっていた。


「一生に見れるか見れないかだっつーのに、あの陰険め・・・・。」


地下室には、ちまたで噂の陰険魔法薬学教師、セブルス・スネイプがいるわけでは大変好ましくない。



ぶっちゃけは彼が嫌いだ。

スリザリン贔屓することろとか、ハリーに一々突っかかっているところとか

陰険なところとか


とにかく嫌いである。




でも最近好意を持ってきている。




「失礼しまーす。」


ノックもせずに中へ入る
それに眉を寄せるスネイプ。



スネイプもが好きではない。

生意気なところとか、頭が良いところとか

バカみたいに笑うところとか


とにかく嫌いである。



でも最近特別になってきている。








、貴様は礼儀と言うものを知らないのか?」




見下したスネイプの言い方には言い返そうと口を開いたが少し考えて口を閉じた。

確かに今のは自分が悪い。
いくら嫌いな相手でも目上の人には礼儀をわきまえるべきだった。


「・・・・すいませんでした。」


悔しいがここは頭を下げておいた。
スネイプは意外そうな顔でを見つめる。


「意外だな。貴様には礼儀なんて無いと思っていたのだが。」

「一応、目上の人には無礼の無いように気をつけていますから。(嫌いな人でも)」

「そのわりには最初の授業で過激な事を言っていたではないか。(我輩も貴様は嫌いだ)」

「教授からさきに言ってきたんじゃないですか。自分の事を言われてまで黙っていられるほど
俺は大人じゃないです。(大人なのに大人気ない事言っている人もいますけど)
とりあえずレポート重いんですけど。」


無理やり話を変えるとスネイプは悔しそうにを睨んでから“そこに置いとけ。”と
テーブルを顎でしゃくった。

重いレポートを置こうとテーブルに目を向けては固まった。


「・・・・教授。」

「何だ。」




隣の研究室に入ろうとしていた彼は不機嫌な声。


「テーブルがきったな過ぎて置く場所ないです。」


テーブルの上は山済みになった本と資料で今にも崩れそうだ。
周りにも本などが散らかっていてどうにか足場があるくらいだ。


「なら貴様の足元にでも置いておけ。」


しかし、は動かない。
下を向いたまま固まっている。
しかも、心なしか肩が震えていた。

「どうした。」

さすがに不審に思ったスネイプが近寄る。

「・・・・・・ぇ。」

「は?」


「何でこんな汚ねぇんだ!!!!」






そう、は綺麗好きだった。







「良くこんな所で仕事できますねぇ!あー汚っ!!」

ぱたぱた手で埃を散らしながらは顔をしかめる。
スネイプはそれを唖然と見つめ、にあれよあれよと言われるうちに掃除させられる事になった。





「っていうか、なんで此処には窓無いんですか?!」

「しょうがないだろ!地下室なんだぞ?!」

掃除を始めて数分、地下室は埃で一杯になった。

「地下室だって窓つければ外の空気ははいります!」

「我輩は寒いのが嫌いなんだ!」

二人とも大声で叫ぶ。
視界さえ埃で覆われている始末だ。

「あぁもう!!」



パンッ

ついに切れたが壁を探し、手を合わせる。

そしてそれを壁に押し付けた。



バシィッ


鋭い音がしたと思うとそこには取っ手付き窓が付いていた。


「!」


初めて見る錬金術に目を見開くスネイプ。


「ぶはー!助かったー!!」

は勢い良く戸を開け新鮮な空気を入れた。
さっきまでの埃が嘘のように薄くなった。

「教授、何ぼけっとしてんですか!手を動かす!!」

「あ、あぁ。」

はっと気づいて彼は本を片付けるのに再び取り掛かる。
もその後に続いて綺麗にしていく。







「その本は上だ、。」


「教授、この研究書まとめといた方が良いんじゃないですか?」


「本を読むな!」


「箒何処ですか?」


「ばかもの!それは我輩のローブだ!!」


「ちょっ、濡れた手でそこ触んないでくださいよ!」


「眠りの水の研究書は何処に置いた。」


「うわっ!カビ生えてますよ!?」












「ふ――――!!終わったぁーーー!!!」








本に埋め尽くされた本棚。

机の脇にまとめられた研究書。

整理された部屋。

間違いなく数時間前まで散らかっていた部屋である。


「見違えるほど綺麗になったな。」

スネイプも汗を拭いながら共感する。

こんなに綺麗になったのは初めてだ。



、紅茶でも飲んでいくか?」


そう思うと自分の隣にいる少年に感謝せねばと思いガラでもなく茶に誘った。

しかし、その言葉には唖然とする。


「・・・・なんだ?」

「い、いや教授が俺をお茶に誘うなんて・・・・珍しいなと、思いまして。」

「あ、やな顔しないでくださいよ。ちゃんと頂きますって。」

途端に不機嫌な顔をするスネイプには慌てて付け加えた。










紅茶の匂いが小さなこの部屋に充満する。


「うわっ、教授って見かけによらず紅茶入れるの上手いですね。」

「見かけによらなくて悪かったな。」


小さなテーブルを囲って二人紅茶を飲む。

前までの険悪さは無かったように和んでいる。

実際はさっきよりスネイプに好意を持つようになっていた。


不器用な人なんだな。

ちらりとスネイプを盗み見しては思う。
怒ったような冷たいような態度はただの照れ隠しで、本当は真面目で優しい人だ。
でも、何故ハリーにあたるのだろうか。



スネイプもさっきよりが特別になってきた。


不思議な奴だな。

紅茶を飲みながらスネイプは思う。
綺麗で知的に見える外見から生意気に見えるが実は庶民的で素直。
しかし、どこか影がある。
眼帯の奥の穴の開いた目で何を思うのか。
何故そうなったのか。





((なんでだろう。))





互いに首をひねる。



「そういえば、さっきの窓はどうやったのだ。」


ふっと思い出してに訊ねる。

杖を使ったわけではないので魔法ではないことはわかっていた。
だったらどうやってそれに近いことをできるのか。

「あぁ、錬金術ですよ。」

「錬金術?」

けろりと言ってのけたに彼は訝しげに聞き返す。

「錬金術師は錬成陣を使うと聞いたが?」

「教授って博学ですねぇ。」

は口笛を吹いて笑った。


「まじめに答えろ。」

睨むスネイプにはやれやれと肩をすくめる。

「教授は何処まで知っているんですか?」

「どこまでとは?」

逆に聞き返されては少し考える。


「例えば、錬金術の基本は【等価交換】とか。」

「?」

「錬金術って言うのは無制限に何でも出せると思われがちだけど、実際ちゃんとした規則があるんです。」

「質量保存の法則と自然摂理の法則」

「他にもあるんですけど大雑把に言えばそんなところです。」


さっぱりわからんと言う顔をしたスネイプに笑いが漏れる。(その瞬間スネイプがを睨んだのはいうまでもないが)



「つまり、質量の一の物には同じ一の物、水性質のものからは同じ水属性のものしか練成できないって事でよ。」


「それが【等価交換】。錬金術の基本です。」

「なにかを得るにはそれ同等の代価が必要になるんです。」


「その得ようとする物と代価との媒介に使うのが練成陣。」



しゃべり終わっては紅茶を再び飲む。

「成る程、こっちで言えば杖に近いものと言うわけか。」

納得したのかスネイプはうんうん頷いた。



「では何故お前はそれを使わずにできるのだ?」

もっともな質問だ。
は笑う。



「教授はなんでハリーが嫌いなんですか?」



脈絡も無いそれにスネイプは呆気に囚われて、すぐ眉間にしわを寄せた。


「質問しているのは我輩だ。」

「最初の質問には答えました。
だから次は教授が答えるべきです。」

「屁理屈を言う「教授」



不敵に笑ってスネイプの話を遮る。



「錬金術の基本は?」






「・・・・・等価交換。」


「正解です。教授が俺の質問に答えない限り、俺も教授の質問には答えません。」

おかわりした紅茶を飲んでしれっとしては答える。
それにスネイプは肩を落とした。

彼の負けである。


「・・・・・ジェームズ・ポッターを知ってるか?」

少しの沈黙の後、諦めてスネイプが喋り出す。

「知りませんけど、ハリーの父上ですか?」

「さよう。そいつは我輩と同学年だった。」

「意外ですね。」

「煩いぞ、黙れ。」

一睨みして話を続ける。

「我輩とポッターは互いに嫌っていた。
いや、我輩とポッター達だな。」

「そしてポッターとハリー・ポッターは・・・あー・・・・その・・・・外見が少し似ている。」

咳をして言いづらそうに目を泳がせた。

「つーまーり、その人と瓜二つのハリーが嫌いと、そういう事ですか?」

「ま、まぁそういう事になる。」

妙にそわそわするスネイプを見てはため息を吐く。



ガキかよ。



「それで、何故お前は練成陣を使わずにできるのだ。」

話を変えようとするスネイプ。

「使わないんじゃないですよ、手のひらに思いえがくんです。」

「そんな事ができるのか?」

「誰でもじゃないです。俺が知ってるのは俺を含めて三人だけ。」

【鋼】の称号を得た少年とその少年の師匠。

今頃どうしてるだろうか。


「一種の才能か?」

「違います。」

じっとはスネイプを見る。














「真理を見たんですよ。」













それはあまりにも皮肉なもの

生きながらの地獄





「真理?」

聞き返すスネイプには笑ってお茶に口をつけた。


「どういう意味だ。」

「どういう意味でしょう。」



おどけて肩をすくめる


「話はここまで。」


そう言ってまた笑った。


「・・・・・そうか。」


「早く引きますね。」

「ふん。」

鼻を鳴らすスネイプを見ては笑う。

紅茶の甘い匂いが妙に身体を暖めた。
















引きたくて引いたわけではない

真理とは何なのか

そんなの聞きたいに決まっているだろう

しかし、お前の笑った顔があまりにも聞くのを拒否していた

眼帯を取ったときと同じように泣きそうに笑っているから・・・


聞くと事が出来なかった







お前は何を背負って生きてきたのだ?

何を背負って生きていくのだ?


お前を救う事は出来ないのだろうか・・・・・――――――――――――