一人の女が愛をした

愛した男は人殺し

何にも知らない一人の女

男と幾つもの夜を共にした


でもこれは秘密の話


だぁれも知らない 秘密の話


















重ならない真実と真実


















どこまでも青い空。

草の匂いが鼻腔をくすぐる。

庭に二人、寝転んで天を仰いでいた。


「ねぇ。母さん。」


ごろんと、寝返りを打って母さんを見ると、母さんは肘をついって笑っていた。


「なぁに、。」


上から母さんの声が聞こえる。

落ち着いた、綺麗な声。


「俺の父さんってどんな人?」


母さんは目を見開いてそれから目を細めて笑った。
苦笑に似た微笑。



今思えばこれは、悲しみを含んだ儚い笑みだった。



けれど、幼い俺にはそんなのわからなくて、ただ綺麗だと思っていた。



物心ついた時、つっても俺が産まれる前らしいけど

父さんはこの村を出て行った。



すれ違いがあったわけでも嫌いになったわけでもないと母さんは言っていた。






しょうがなかったのよ。アノ人はそういう人だったから。




母さんはそう言って目を伏せたのを覚えている。




「そうね、優しい人だったわ。」

「一回目に会ったときとても弱くて、すべてを憎んでいた。」

「次に会ったとき、が生まれる一年くらい前ね。
そのときは世界を憎み、人間を憎み、この世のすべてを憎んでいた。」

「でも、アノ人はそれ以上に優しい人だったの。」





「そんな人よ。ふふ、にはまだわかんないかもね。」



頭を撫でながらくすくす笑う。
今度は穏やかな笑み。

俺が一番好きな微笑みだ。


「ふーん。ねぇ、父さんは生きているかなぁ。」

「あら、アノ人は弱いけどへこたれる人じゃぁないわ。」

失礼ねと、不機嫌にそうにするけど口端が上がっていて面白がっているのがわかる。



「じゃぁ、俺が大きくなったらどこかで会えるかもね。」



そう思うと早く大きくなりたい。

母さんが好きになった人を見てみたい。

きっと素敵な人だろう。




「きっと会えるわ。」




母さんの手が頬を包む。

その手は暖かくて安心する。


「そうだ、アノ人の名前教えてなかったわね。」


「あなたのお父さんには名前が二つあるの。」


「一つはあまり好きじゃなかったみたいで呼ばれるのを嫌っていたわ。」


あたしは好きだったけどと、付け加えて話を続ける。



「もう一つは私が考えた名前」

「あまりにも自分の名前を嫌うからあたしが付けたの。」

思い出したのか母さんはくすくす笑う。


「その名前はね・・・・・――――――――――――――――――――――






































気が付けば見慣れた天井。

は身を起こして辺りを見回す。

まだ夜が明けていないのか部屋の中は薄暗い。

隣でハリーの寝息が聞こえる。



「・・・夢・・・・か。」



自分の手のひらをじっと見る。

懐かしい昔の夢だった。

幼い自分と生きていたときの母さんと二人、庭で寝そべっていた。

話の話題は父さんの事。

一つ目の名前は確か・・・・・・・



「トム・マールヴォロ・リドル・・・・・・・・。」



何故その名が嫌いだったのか。

には理解できない。
自分は母がくれたこの名前を気に入っている。

でも人にはそれぞれ事情があるのだ。
会えたときに聞いてみよう。


そして母がつけたもう1つの名前












「ヴォルデモート」












膝を抱きしめて額をつける。


ねぇ、父さん

今 何処にいる?

話したい事がたくさんあります

母さんは病で亡くなりました

残念ながら生き返す事は出来ませんでした

俺は左眼を持っていかれました

けれど俺は元気です


世界の何処かにいる父さん

今何してますか?

母さんがつけた名前は気に入ってますか?

俺と会ってくれますか

俺は・・・・――――――






「会いたいよ・・・・父さん。」





初めて吐いた背徳者の弱音。

嗚咽混じりの掠れた声を聞く者は 誰もいない。



もうすぐ夜明けだ。











だぁれも知らない 秘密の真実

たった一人の この子の親族

行き着く場所は何処でしょう

辿り着くのはいつでしょう





知らない方が良いことは沢山あるけど

知らないことがこんな辛い悲劇を呼ぶなんて


ねぇ


いったい誰が予想したというの?









 だめだめあとがき ―――――――――――――――――

あいたたたー。

ついに父君の名前が・・・・!!!!

主人公の母様についてはいつか書きます。