ご友人が言った一言の言葉の意味は

彼女が流した一粒の涙の意味は












8.









いつものように誰もいないベンチで本を読んでいたらサキと名乗る女が訪ねてきた。


「トム・リドルさんですね?私はサキ・エレン。の親友です。」


丁寧に礼をしてはたりと、僕の目を見つめる。

」と出て一瞬心臓が飛び跳ねる。

四日間と話をしていない。

彼女が言った言葉が気に障ったわけでもないのだが、何故か避けてしまった。

きっと あんなに真っ直ぐな目を見るのは初めてだったからだろう。

闇である僕には眩しすぎたのだ。

彼女は穏やかに笑うから

惨めな僕を照らすから

だから僕はを避けた



なのにどうしてだろう

この四日間

いつも彼女を探していた


彼女を見るたびに胸が塞がったように苦しい


この感情を何と呼ぶのか僕は知らない




のご友人が僕に何の用かな?」


優等生の仮面を被ってにこりと笑う。



が倒れました。」

無表情で言われた事に一瞬理解できなかった。

彼女は今なんて言った?

倒れた?




「今は医務室にいます。」

大丈夫なのだろうか。

元気だろうか。

そんな事だけが頭の中で廻っている。

体が医務室を目指そうとしている。


おかしいね

君を避けてた僕が君に会いたいと思うなんて


会いに行ったら君はなんて言う?

泣く?怒る?

どっちでもいい

早く会いたい


医務室に足を向けようとすると急に腕を掴まれた。



「・・・・・・何?」

眉を寄せて、腕を掴んでいるサキ・エレンを睨む。
彼女の顔は無表情のままだ。


「私、と昔から一緒だったんです。」

その声も何の感情もない。

「つまり幼馴染なんです。」


「だから何?」


脈絡のない話に苛ついて前髪を掻き揚げる。
そんな話どうだっていい。


「家が隣で一緒に二人でバカして、一緒に怒られて。」

「あの子、横領悪いんですよね。いつも良いトコ盗られちゃって、目立たないんです。」

「知ってました?ハロウィンの飾り>がやったんですよ?」

「でも言わないから他の子がやった事になってて」

「目立たなくて、密かにマフラー愛用家で、どうでも良い事を真剣に考えてる」

「そんな幸せ逃がす子なんです。」

サキ・エレンは、べらべらと喋ってそこて区切る。
本当に何が言いたいのかわからない。

今にも目の前の女を殴りたくなる。



「そのは、もうすぐ死にます。」





頭の中が






真っ白になった




そんな気がした。










「・・・・冗談だろ?」

「冗談でこんな事言いません。」


鋭い棘のある声でサキ・エレンが追い討ちをかけた。


>が


いなくなる?




「・・・私はの友達です。」


ポツリとさっきと同じ事を呟く。
声が震えていた。


「親友なんです・・・・!」


怒りをあらわにした彼女が叫ぶように言った。

「いつも一緒にいて」

「あの子を理解してるのは私!」

「あの子が何が好きかを知っているのも私!!」


彼女の茶色の瞳がぎらぎら光っている。



「あの子・・・・この四日間どんどん弱っていってるんです。」



腕を掴む力が強くなる。


「薬も効かなくなっていってて・・・昨日なんか押さえきれなくて部屋で血を吐いちゃったし
・・・・。それも半端な量じゃないんですよ?」


僕はされるがままだ。





リドルは幸せってあると思う?




四日前、愛しい人が口にした言葉が甦った。
澄んだ微笑み。首もとのマフラー。



・・・は幸せ?



そう言ったのは自分。

僕はなんて残酷なことを聞いたんだろう。

僕は愚かだ。

幸せ?

そんなの

幸せなわけないじゃないか。





わからない。




困った顔でその人は笑って言った。
僕は歪んだ感情で彼女のその笑顔を見ていたんだ。

何を思ってどんな気持ちで彼女はそれを口にしたのかも知らないで




「なのに・・・あ、あの子大丈夫だよって笑って言うんですよ?!笑ってる場合じゃないのに・・・。
バカなのよ、きっと。貴方の事ばっかり心配して・・・・もっと、自分を大切にして欲しいのに。」


を避けていた僕を恨むのも無理ない。



「貴方よりいる時間も過ごした時間も長いのに!」

「あの子をたくさん知っているのは私なのに!!」


彼女の瞳から涙が零れた。

腕から手が離れる。


「あの子を・・・・幸せに出来るのはっ・・・・貴方だけです。」

零れた涙を拭いもせず彼女は頭を下げた。

「お願いします・・・・あの子の最期看取ってあげて下さい・・・・。」






「・・・・わかってる。」


そう言ってのいる医務室まで走った。





窓から見える空は目が痛くなるほどの青だった。