もう残されていない

あたしの時間

ただ

君の幸せを願うよ








9.







レポートを書く生徒を尻目にあたしは面白そうな本を探していた。

独特の雰囲気を放つ図書館はあたしのお気に入りの一つ。


静かなこの空気が好きだった。



「あら、誰かと思えば劣等性のハッフルパフじゃないの。」



バカにしたような声に振り向くと、いつしかのかわい子ちゃんがいた。

ふわふわの髪にくりくりの大きな瞳。


かわいいなぁ


そんなどうでもいい事を頭の片隅で思っていた。


「最近リドルといるとこ、見ないわねぇ。」


不幸か幸いかあたし達の会話は他の生徒には聞こえていない。

くすくす笑って喧嘩でもしたの?と顔を覗き込む。

その仕草も様になっていてホント羨ましいな。




リドルには、あたしなんかよりこういう子が似合うのよ。




そう思うのを止められない。



「ちょっとぉ、無視?何か言いなさいよ。」


苛付いた彼女の声に我に返った。

彼女は可愛い顔を鬼のように歪めてあたしを睨み上げている。



「リドルとは喧嘩しているかもしれないし、そうじゃないかもしれない。あたしにも
わかんないから本人に聞いてみたら?じゃぁね。」


にこりと笑ってその場を去る。

彼女の顔が赤くなるのが視界に入った。



怒って笑って馬鹿にして・・・・・

忙しいほどに変わっていく彼女の表情


羨ましいなぁ、もう









あたしは笑う事しか出来ないって言うのに・・・・・








ふと、ある本に目が留まった。

埃をかぶった古い本だ。

題名は『マザーグース』

棚から引き抜いてパラパラと捲ると聞いた事のある詩が書いてあった。

懐かしくなっておもわず読み耽る。

そして最後の詩に目を奪われた。







ソモン・グランデイ


月曜日に産まれて

火曜日に洗礼

水曜日に結婚して

木曜日に病気

金曜日には危篤になって

土曜日に死んだ

日曜日は埋葬された


これでお終い


ソロモン・グランディ





読んだ直後に笑いがこみ上げてきた。

一人でくすくす笑って


でも



後から後から




涙が溢れた




一週間も生きられなかったソロモン・グランディ

あたしと似ている


しかし


あたしの水曜日の恋人はあたしの為に涙を流してくれるでしょうか



あたしはその恋人に何もしてあげられないまま死んで逝くのでしょうか。




なんて無力な最期だろうか。


この手も動かなくなってきた。

もう


これでお終いなのかもしれない。


悲劇のソロモン・グランディさえ演じれないあたしは




所詮







凡人ソロモン・グランディ