さぁ
なにしようか。
残り時間はあと少し
2
あたしは、未だボグワーツにいる。
校長先生は家に帰った方がいいと、言っていたけど
あたしはそれを拒否した。
家に帰ればそれこそ悲しくなるから。
母の泣き顔も
父のつらい顔も
見たくない
思いにふけってると冷たい風が通り過ぎた。
思わず首をすくめてマフラーに顔を埋める。
黄色と黒のしましまのマフラー。
結構気に入っていたけど、これともおさらばか。
寂しいねぇ
マフラーに話しかけながら手で撫でる。
はたから見れば変人だね。
冷たい風はまだ吹いている。
もう三月なのに冬模様だ。
と、
中庭のベンチに誰か寝ていた。
仰向けに寝て、開きかけの本を顔にかぶっているので誰かわからない。
緑と灰色のしましまマフラーからしてスリザリン生だ。
こんな寒い中良く寝ていられるね。
もしかしてバカなんじゃないの?
俊敏狡猾スリザリン
しかしその正体はバカでしたってか?
笑えなーい
ってか、誰なんだろう。
無性に気になるよね、こういう時って。
バレないように本を取ってその顔拝んでやろう。
怒られたって別に気にしなーい。
どうせもうすぐ死ぬんだし
起こさないように
そーっと、そーっと本を取る
悪戯する時みたいにドキドキした。
この感覚は嫌いじゃない、むしろ好き。
成功したときの快感がたまんないのよねぇ。
真っ黒い髪と白い肌が見えてきた
あと少し
そーっと
そーっと
よっしゃぁ、
無事任務完了!
っと思った瞬間、あたしは驚いて叫びそうになった。
何にって、寝てた人に
眉目秀麗で成績優秀、ボグワーツで知らない人はいない有名人だった。
流れるような黒髪 長い睫毛 白い肌
女のあたしより百倍も一千倍も綺麗な男子生徒
トム・リドル
そんなお方が寝ていた
マジかよ
何かのドッキリとか?
周りを見渡しても誰かが隠れている気配は無い。
どうやらドッキリではないようだ。
偶然にもこのお方はベンチで寝ていて
偶然にもあたしはそれを見かけてしまった、らしい。
なんて運がいいのだろう!と喜ぶべきなのかしら?
死ぬ前に有名人に会えてんだから喜ぶべきだね
まぁ、そんなことはどうでもいいや。
いつもいる取り巻きがいないからじっくり拝んでおこう。
やー、しかしながら本当に綺麗な顔してんねぇ。
肌すべすべだし、髪さらさらだし
寝てても絵になるし
女の子が騒ぐのもわかるよ、うん。
そうそう、さっきから気になっていたけど
もしかしてこの方、
「死んでるんじゃ・・・・。」
だってこの方全然動かないし、寝息聞こえないから息してんのかわかんないもん!
思えばこんな寒いところに寝てるなんて死ぬ確率デカいよね
どうしよう、これじゃ月曜ミステリー劇場じゃん
「か、家政婦は見た・・・・・。」
お決まりの台詞だね。
ちょっと言ってみたかったのよね。
ってか、いう機会って皆無だったし
うん、なんと言うかもう満足だ
寮に帰ることにするか
本当に死んでいて第一発見者のあたしが疑われたらヤだし(オイ)
そーっと、本を元に戻す
起こさないように(あ、死んでるかもしれないんだ)
任務は完了した、っと思ったら
いきなり右手を掴まれた(ヒイッ)
その手はかなり冷たくて
ゾッとする
「人の顔見といて無かった事にするなんて失礼じゃない?」
そう言って有名人こと、トム・リドルはあたしの手を掴んだまま
空いている手で本を取った。
少し微笑んだ顔がカッコいい
女の子なら黄色い悲鳴か顔を真っ赤にするべきなんだろうけど
凡人女のあたしには無理な話だ
だって有名人に話しかけられて固まってしまっているんだから
例えて言うならアレよ。
牧場で暮らしている人の所に大統領が来た感じ
有名なのはわかるけど自分とは生きてる場所が違うって奴?
かけわかんない例えになってしまった
うーん、早い話が
豚に真珠ってこと。
「どうかしたかい?」
ポカーンとして見ていると彼は首を傾げた。
その姿さえ絵になる。
って、違くて!
なんて答えればいいの?!
あたしの頭の中はパニック状態だ。
人間とはおかしなものでパニックを起こすと突拍子も無い事を口走る習性がある。
それはあたしにも該当していた。
「・・・無事生還おめでとうございます。」
彼は目を見開いてからすぐ細めくすくす笑った。
「君、面白いね。」
そう言ってあたしを見る。
「めっそうもございません。」
即座にあたしは否定した。
そしたらまた面白そうに彼は笑う。
「ところで名前はなんていうの?」
笑いが治まってから聞かれたそれに一瞬言葉に詰まる。
「何でそんなこと聞くんですか?」
だってほら、むやみやたらに名前を教えてはいけませんって昔言われたでしょう?
この際親の言いつけくらい守ってやろう。
もう、親孝行する事もできないんだから・・・
「聞きたいからさ。」
有名人は悪戯そうに笑ってそんなことを言った
「・・・・・です。」
ごめん、我がペアレンツ。
言いつけさえ守れませんでした。
「か。いい名前だね。」
そうですかねぇ
有名人は笑って“そうだよ。”と言った。
「とことで、突然だけど
僕と付き合わない?」
ハロー ハロー
美しき世界に住む魔法使いへ
あたしの運命
どうなるんでしょうか、どうぞ?