ハロー ハロー
美しき世界に住む人たちへ
あたしの声
聞こえますか、どうぞ?
最終章
「・・・・こんにちは、。」
声よ、どうか震えないで。
顔よ、どうか笑ってくれ。
僕が彼女に出来る事はそれだけなんだ・・・
リドルがいる。
夢でも見ているのだろうか。
それならなんて残酷なの。
彼がにこりと笑う。
「久しぶり。」
そう言って彼はベッド近くの椅子に座った。
聞き心地の良い声。
「久しぶり・・・ね。げ・・・んきだ・・・った?」
あたしは何を言っているんだろう。
どうせこれは夢なのに。
あたしの虚しい想像でしかないのに。
「元気だよ。」
彼はあたしの手を取って頬を摺り寄せた。
ある筈の無い手の温もり。
嗚呼
彼は本当に此処にいる。
涙より先に顔が緩んだ。
彼女の手は冷たい。
悲しいほどに冷たくて何度も優しく擦って暖める。
彼女の全てを暖めれば彼女が元気になる気がした。
馬鹿らしい。
そんなのあるわけが無い。
昔の僕が嘲笑っている。
それでも今の行為を止められない。
彼女が助かるのなら何だってしよう。
火の海にだって飛び込むし、一生魔法の使えない身体にだってなっても良い。
彼女が僕を嫌う事になっても忘れても何だって良い。
どうか、彼女を助けて・・・・
僕の願いは伝わらない。
擦っても擦っても彼女の肌が温まる事は無かった。
「暖・・・かい・・ね。最、初会・・・った・・と、き
と・・・て・・も冷たか・・・った・・。」
「の手は暖かかったよ。
いきなり本を取られて驚いた。」
が微かに微笑む。
リドルも笑った。
初めて会ったのは一週間前なのにずいぶん遠くに感じる。
「誰が・・・・寝、て・・・い・・たのか・・・気にな・・・った・・の、よ。
スリザ・・・・リ・・ン・・・に、も
馬鹿・・・・がい、たの・・か・・・と思・・・って・・・・。」
「馬鹿って・・・ひどいなぁ。
僕だって羽目をはずしたい時だってあるのさ。」
「・・・あ、の・・とき・・・・いつか、ら・・起き・・てい、た・・の、?」
「最初から。鼻歌うたってたよね、校歌。
ラの音外れていた。」
「難・・・しい・・・の、よ・・あ・・れ。」
「そうかな。」
「そ・・・・・う・・よ。」
「ね、ぇリ・・・・・・ド・・・ルは・・・幸、・・・せ・・?」
途切れた会話のあとは聞き取りにくい声の調子でそう言った。
「・・・・・。」
「あ、たし・・・・・・・リド・・ルに聞かれ・・て判らな・・・・い
って、答・・・えた、けど、」
自分は幸せか不幸せか。
その答えを知ったのは皮肉にも今だった。
死ぬのが怖いです。
自分だけが置いていかれるような、はたまた連れて行かれるような。
冷たくなる自分の手。
怖い、怖い。
人間じゃないみたい。
でも
この手を暖めてくれる人がいる。
彼の手は暖かい。
世界は綺麗だ。
空は青い。
鳥は歌を唄うし木々は穏やかに揺れる。
会った人はみんな良い人だった。
優しい人だった。
だから。
「今・・・とて、も・・・幸せ・・・だよ。」
「ありがとう。」
リドルが目を見開いた。
彼の瞳は暖かい。
彼の手は暖かい。
リドル。
リドル、リドル。
ありがと。
ありがとう。
暖めてくれた事にありがとう。
居てくれてありがとう。
好きだよ。
好き好き好き、大好きです。
サキもありがとう。
一番の友達。
リドルをここに呼んでくれたのはサキでしょ?
知ってるよ、あたしの大事なお友達。
いつもあたしはサキに頼りっぱなしだったね。
ごめんね、そう言うと貴女は怒る。
それなら。
ありがとう。
ソフィもアルマも校長先生もマダムも
お母さんもお父さんもみんな、みんな、ありがとう。
沢山の『ありがとう』を彼に友達に世界に伝えたい。
「ありがとう。」
リドルが笑った。
とても綺麗な微笑み。
これが彼の本当の笑みかな。
そう、だったら良い。
リドルが此処に居る。
手を握ってくれている。
世界で一番あたしは幸せ者だ。
ハロー ハロー
美しき世界に住む人たちへ
あたしの声 聞こえていますか。
精一杯のこの声
“あ り が と う”
“どういたしまして・・・”
確かに聞こえた 応答の声
彼の声
雲一つない穏やかな晴れた日
凡人ソロモン・グランディは眠りについた。
水曜日の恋人は一掬いの涙を流し、
優しい笑みで彼女の額にキスをする。
それはとても綺麗で優しい口付けだった。