走って
走って
医務室に着くとマダムが泣き腫らした顔で僕を出迎えた。
11.
「最期を看取ってあげて・・・。」
彼女のはつらつとした笑顔はそこのは無く、掠れた声でそう言って
部屋を出て行った。
意を決してゆっくりと彼女が寝ているだろうベッドに近づく。
ゆっくり ゆっくり
駆けつけたい衝動を抑えて、動揺している自分の気持ちを押し殺して僕は
白いカーテンに手をかけた。
白いシーツに白いタオルケット
目に痛いほどの白い空間に彼女はひっそりと横になっている。
その瞬間
飛び込んできた光景に僕のさっきまでの決心はもろく崩れ去って、頬を冷たいものが流れた。
艶のあった黒髪はぱさついて乾いている。
肌なんかは血管が浮き出るほどの白さだ。
半開きになった唇からは絶えずヒューヒューと音が漏れている。
この人がこの前まで笑っていたなんだ
頭を硬い何かで殴られた気分だ。
どうして気づかなかった。
なんでいままで・・・・
怒りなのか後悔なのか、それすらわからない感情が全身に駆け巡る。
「・・・・・・リド・・・ル?」
細い声。
吹きそこなった口笛のような音が彼女の声を邪魔する。
薄っすらと開かれたの目が僕を捕らえた。
「・・・こんにちは、リドル。」
彼女の穏やかな微笑みにどうしようもなく胸が痛んだ。