クリスマスになるとその少女を必ず見かける。ソレは外であったり城の中の階段であったり、部屋の中だったりばらばらだが、必ず主であるヴォルデモート様のお姿が見える所にいた。初めは敵だろうかと疑ったりもしたが、そのような様子は一切ない。一心に主を見つめるだけである。しかも彼女に気付いたのは数年前であるのだが、現れるのは十二月の二十五日だけだった。それ以外の日は現れないのでますます怪しい。敵意は感じられないのだから放っておけばいいのだが、自分の好奇心が抑えられない。今日、また現れるようだったら問い詰めてやろうと意気込んでいると早速白い影が過ぎる。 「メリークリスマス、セブルス・スネイプさん。」 「っ?!」 少女の白い肩に触れようとした瞬間、彼女はくるりと振り向き、驚いている自分をよそにニコリを微笑んだ。白いワンピースがふわりと揺れる。同じ様に黒い髪も揺れた。いつも遠目だったがやはり近くで見てもホグワーツも卒業していないだろう年だ。手に持ったマザーグースの絵本を大切そうに持っている。何も言えないで固まっている自分を気にもせずに彼女は近くの階段に座る。冬だと言うのに裸足だ。なのに傷一つ付いていない。 「誰だ、って顔してるね。あたしは・。はじめまして。」 「・・・・・・はじめまして。」 先々を言われて戸惑うとと言う少女はへにゃっと笑う。(自分でもどんな効果音だと思うが本当にそんな笑顔だった)そしてまたその階段から見える主の部屋を見つめた。 「あの方に何の用だ。」 「用が無いとダメ?でも、そうね。あたしも用が欲しかった。」 「・・・・?」 「リドルに会える用があたしも欲しいよ。」 会いたい、触りたい、手を繋いであの日みたいに、ねぇ。 の横顔はさっきまでの笑みは無く、夢見る少女のようでいて、でも現実を知っているような。そう言う悲しみに満ちた顔だった。見ていられないくて自分も主の部屋を眺める。主が思いに耽っている。その視線の先には装飾の豪華な箱があった。美しい細工が施された綺麗な鍵付きの箱だ。以前自分たちしもべの間でも噂になったもので中には美しさの秘薬があるとか(初老とも呼べる年である主は年をとるごとに一層美しさに磨きがかかっているのだ)山の様な金貨のある金庫の鍵が入っているとか、はたまた主の心臓が入っているなど様々な噂がある。しかし実際その箱の中身を見た者はおらず噂だけが勝手に一人歩きしているのが現状だ。 「あの箱には何が入っているんだ?」 「テープだよ。」 「テープ?」 が息を吐く。自嘲気味な笑みを浮かべて目を伏せた。 「ある平凡な女の子が死ぬまでに弱さの捌け口にしたくだらないテープ。あんな綺麗な箱に入る代物じゃないのよ。すぐにでも捨てるべきだったの。」 主が小さな箱を大切そうに開けているのが見える。 あのような柔らかい切ない主の顔は見たことが無い。 「ねぇ、セブルス。お願いがあるの。あのテープを捨てさせて。」 「・・・あなたにとってくだらない代物でも我が主にとっては大切な物だ。捨てさせるなど、」 「もうすぐっ」 「?」 「・・・・もうすぐ子供が出来るわ。リドルの、ヴォルデモートの跡取り息子が。このままじゃ彼はずっとあのテープに囚われる。大切なものは守らないといけないの。いつまでも死んだ者の事を考えていちゃいけないの。だからあたしも最後にする。もう此処へは来ない。」 泣きそうに顔を歪めさせては笑った。目の縁には涙が溜まっている。一回でも瞬きをすれば落ちてしまうだろうソレを必死に我慢している姿に体のある所がちくりと痛んだ。 心の何処かで無駄であると感じてる自分がいる。例え跡取りが出来ようとこの世界が滅びようと主はそのテープを手放さないだろう。あの方のあんな表情は見た事が無かった。あの方はとうに死んでしまった目の前の少女を今でも掛け替えのない存在としている。の目が瞬く。頬を流れた透明な雫が床に落ちて染み渡る事は無かった。涙が零れ落ちるたびに魔法のように消えていく。どんなに主を想おうと彼女は人ではないのだ。 その事実が彼と彼女の共にいられない大きな差であるのだと、漠然と感じては二人が哀れで仕方がなかった。 |
聖 人 の 涙