いだ手を放してはいけないよ、
そう言って彼はの小さな手を取って微笑んだ。門の近くでは灯が燃えている。白樺の木を用いているためか匂いはいい。暗闇の中灯る炎はと彼を頼りなく照らしている。迎え火って言うんだよ、暗闇に溶け込むような服と髪をした彼はそっとに呟く。炎の勢いは弱い。不安になってきゅっと手を握り返す。彼は、山崎は小さく微笑んだ。


「お盆の始めに焚くんだ。霊が迷わず帰ってこれるようにね、目印。」
「目印・・・。」
「俺は受付役なんだ。だからね、俺の手を放しちゃいけないよ。引き込まれちゃうから。」


最後の言葉には小さく悲鳴を上げて両手で持って山崎の右手に縋りつく。彼は笑って頭を撫でる。彼は怖くないのだろうか。連れて行かれたりするとは思わないのだろうか。


「怖く、ないの?」
「んー、昔からこう言う体質だもの。慣れたよ。それに」


暗闇の中からぽつりぽつりと青い小さな光が近づいてきた。ゆらゆらと揺れて近づいてくるうちに大きな楕円形を描き、人の形になっていく。刀を差して袴を穿いた人々。列になる。老いた人も若い人も背をピンと伸ばして歩いていた。門へ近づくと山崎は微笑んで彼等に頭を下げた。彼等も頭を下げる。


「お久しぶりです、山南さん」
「あぁ、今年もお世話になるよ」
「ゆっくりしていって下さいね、副長もきっと喜びます」


山南と呼ばれた男が笑む。山崎も微笑んだ。家族を見るような目。優しい目。
どこからか鈴の音がした。彼が門を潜る。すると途端に消えてしまった。他の人々も門を潜るたびに次々と消えてしまう。それでも絶える事のない列。恐怖は不思議と起きない。誇らしげに歩く彼等。『誠』の旗。その一つ一つが神聖なものに見えた。最後の一人が門の中へ消える。山崎がそっと呟く。親愛を込めて。




お 帰 り な さ い