どうしてアンタなんか産んだんだろう


耳に張り付くような冷たい声にリドルは飛び起きた。薄暗い部屋。外は雨が降っていた。
うっすらと掻いた汗を拭ってリドルはきつく目を閉じる。昔の記憶だ。自分が小さい時母の言っていた言葉。今でも身が震え上がる。間違いなく彼女は自分を恨んでいた。マグルである男に捨てられたから。リドルがマグルの血を引いているから。


「・・・・マグルが悪いんだ。」


自分じゃない。薄汚いマグルがこの世にいるから彼女は自分を責めている。
恨むのはマグル。憎むのはマグル。


「マグルなんて全員死んでしまえばいい。」


銀髪の少女が脳内を過ぎった。紫色の瞳をして風のような子。その子も死んでしまえばいい。
そう心の中で呟いて再び目を閉じる。しかし死ぬところを想像すれば母親の夢を見たとき以上に体が震えた。




8.




あのね、。あの人たちは悪くないの。しようがなかったのよ。しようのなかったの。お父さんもお兄ちゃんも何も悪いことしてないのよ。誰も悪くないの。ね、わかる?誰も悪くなんかなかったの。


だから誰も恨まないで、いい?


ふと意識が浮上する。うっすらと目を開けると見慣れるまでになった天井が見える。少し横に視線を動かせば窓があり、外はまだ薄暗かった。夜明け前なのだろう。は目を閉じて寝返りを一つ打った。今見た夢をぼんやり思い出す。いつの日かした約束だ。


誰 も 恨 ま な い で


まどろみ始めた頭の中で うん、と小さくは答えた。誰も恨まずに。それは簡単なことじゃない。大人だって難しい。軽はずみで頷いていい約束ではなかった。この時はあまりにも無知で愚かだったのだ。しかしそれ以上にには何も無かった。家族はいない。涙ももう枯れ果てて、父がくれた名前は捨てられた。帰る家もなく、待っている人もいない。何にも、何にもない。


もし大切なものを二度と失わずに済むのならいくらだって約束してやる。
誰も恨まない。今までも これから先も、ずっと。


N E X T