6.











スコンと抜けた晴天の空。風にそよぐ草花。
差し込む木漏れ日の中では目を瞑っていた。少し離れたところには湖があるらしい。誰かが遊んでいるのか水音が聞こえる。手元には図書館で借りた本が五冊。そのうちの二冊はリドルに進められた魔法薬調合法とわかりやすい魔法史。それから、たまたま見つけた編纂された魔法報告書と魔族契約書。最後二つは人気がなかったのかその本たちは題名のかれてある背は色褪せているが中の紙は全く新しい。そしてあと一冊は五冊の中で一番薄て一番文字の大きい絵本だった。


まだ午前を抜け出さない時間である今、湖から少し離れたところにある木陰はホグワーツ校外で最も涼しい場所だ。高くもなく低くもない一本の木と通常より少し丈の長い草が茂っているため日の光を丁度良いくらいに遮り、風を通すから涼しい。は朝の食事を食べ終わってからずっとここで本を読んでいた。いつもならリドルと図書館に行くのだが生憎彼は食事が終わってからすぐ用事があると言っていなくなった。何処に行くのかは訊いていない。訊く前にはぐらかされた。きっと話したくないことなのだろう。だからもしつこく訊かなかったし、リドルは昼食までには帰ると言っていたからそれまで本を読んで時間を潰す事にした。


ホグワーツは穏やかに時が過ぎる。高い所で風に流されて悠々と進む雲。日の光は夏だから些か厳しいが今まで暮らしていた国はもっとずっと暑かった。なんせ一年中熱い国だ。外に出るのは大体夕方頃からで日中は家の中で過ごす。だから晴天の空の下でこんな風に日々を過ごすとは思っていなかった。


風が少しの間凪ぐ。は持ち上げて読んでいた魔族契約書を下ろしてゴロリとうつ伏せになる。素足に草の感触は気持ち良い。右足のギプスは四日前に取れた。まだ少し違和感は残るがどうにか二本の足で歩く事が出来る。頭の包帯も頬のガーゼもこの前取れて、包帯が巻かれているのは左腕だけとなった。


涼しい風に再びの銀髪が揺れる。ざわめいた葉とソコから漏れる光がくすぐったい。心地良い所為か意識が遠のいていく。遠くで誰かの声が聞こえた。きっとハグリッドだろう。今日は夕方頃に珍しい生き物を見せてくれると言っていた。早くみたい。少し寝ようか。でも眠たくはない。何処かで鈴の音が聞こえる。ホグワーツの領域内には鈴がいくつか付けられていた。普通のマグルが入ってこれないように魔法がかけてあるらしい。眠たくないな。風に乗ってその音は綺麗だ。眠たくないのに何故か瞼が重い。


何かが草を踏む音がする。足取りは軽く人ではない生き物。ひどく静かに歩くなと思う。まるで生き物でもないような静かさだ。目を開けてソレが何か確かめたいのに意識が沈んでいく。










「それ以上読むと戻れなくなるよ。」








眠りの中に落ちていく瞬間、知らない声が耳元で聞こえた気がした。
一層ざわめいた木々。風はもう止んでいるのに。


N E X T