一瞬何が起こったのかわからなかった。
ぱっと明るくなった後、鼓膜が破れそうな爆音が響く。空がやけに青い。目の前に見える空の青さに自分が爆風で吹っ飛ばされていることに遅れて理解する。
スローモーションだった。全てが。
店の中で顔馴染みの老人と話すお母さん。そのなか一人の客がドアを開けた。その瞬間だった。ぱっと光ってお母さんも顔馴染みの老人もその客も光に飲み込まれてしまった。本当に何が起きたのかわからなくて、空は青くて、ただ左腕が酷く熱く感じた。


そこでの意識は途絶えた。









1.












誰も悪くないの。だから誰も恨まないで、良い?


そう言ったのは誰だったか。酷く優しげな声。綺麗な黒髪。そう―――お母さんだ。
私を抱き締めてしきりにそう言って泣いている。思えばそれは己に言い聞かせていたんだと思う。誰も悪くないなんて嘘だ。あの人たちが悪い。あの人たちがお父さんとお兄ちゃんを奪った。そんなの四歳児の自分だってわかってる。でもそう言って私に言い聞かせるこの人のほうがずっと辛くて苦しいのを知っていたから、「うん」と小さく頷いた。彼女は笑って「いい子ね」と頭を撫でた。









「気が付いたようじゃな。」


うっすらと目を開けるとソコはの見たことの無い部屋と見たことの無い老年の男性が穏やかに笑っていた。身を起こそうと彼女が動こうとすると彼は傷にひびくからと言ってそれを制す。見れば左手一体に包帯が巻かれてある。右足もギプスで固定しているようでびくりともしない。酷い怪我だったと彼、アルバス・ダンブルドアは言っていた。左手の火傷と右足の骨折が特に酷くマダム・ポンフリーの薬でも日にちがかかるらしい。はマダム・ポンフリーと言う人がどんな人か知らなかったが多分医者か何かだろうと勝手に決め込んだ。


「何か飲むかね?」

ふるりとが小さく首を振ると浮かせた腰を下ろしてにっこりと笑った。その笑顔に安心して、お礼が言いたくて口を開いた。だが、声が出ない。何回出そうとしても声が出なく、異常に気付いたダンブルドアが心配そうに顔を覗きこむ。


「どうかしたかな?」


動かすのに問題ない(と言っても擦り傷や切り傷はある)右手で喉を指差すと彼はが声が出なくなっていることに気付いたようだ。彼は一瞬辛い顔をしたが、すぐを安心させるように微笑む。


「大丈夫じゃ。君が元気になればすぐ声も出るようになる。今はゆっくりおやすみ。」


大きな手がの右手を柔らかく包み込む。暖かい。小さい頃よくお母さんがこうして手を握ってくれた。ソレを思い出して彼女の顔を思い出そうと思い浮かべる。しかし、目に浮かんだのは溢れんばかりの笑顔でもあの時言い聞かせるように泣いた顔でなく、皮肉な事に眩しい光に飲み込まれる一瞬の彼女だった。





波が引いていくようには二度目の眠りに付いた。